オービス

おもむろにポストから取り出した郵便物に目を通していた。
すると、一枚のハガキに目が止まった。

東京交通機動隊からの速度違反の通知だった。

最初はただのスピード違反だと思っていた。
出頭要請のある日時に行けないので、ハガキに書いてある担当者に電話してみた。
ところで、どの位のスピードだったのかと訪ねてみたが、本人確認が出来ないと教えられないと言う。
赤いランプがついたのは気づかなかったかと問われたが、私はまったく気がつかなかったと答えた。
日時がはっきりと記されていたが、当日の記憶もまったくなかった。
その日は土曜日早朝に天然村へ行く途中だったが、まったく気づかなかったのだ。
仕方がないので希望の日時に変更してもらい、当日聞くことで了承した。

しかし、気になったのでネットで調べてみて唖然としてしまった。
何と高速道路でオービスに写ると、確実に赤キップが待っていると書いてあるではないか。
おまけに50キロオーバーだと90日の免停処分になる。
マスト30日が免停になる。

うーむ、参ったと思った。

オービスに写るなんて、10代の時に一度捕まって以来の失態である。
当時はマスクをしてたら捕まらないとか、遊び半分だったような記憶がある。

オービスは現行犯ではないので、完全な証拠が揃っていないとあちらとしてもハガキが出せないようだ。
例えば、車が重なって写ってるとか、何らかの不確定要素があれば通知は出せない。

現行犯でないと捕まらないと言えば、つい先日に友人からネタの一つとして聞いて欲しいと電話があった。

彼はバイクで走行中に違反をしてパトカーに警告をされたらしい。
前のバイク止まりなさいとマイクで叫ぶ警官に対し、彼は瞬時に戦略を描き実行に移した。
点数がギリギリになっているため、逃げ切ると決めた彼は気付かないふりをして、淡々と前を向いて走り続けた。
完全に聞こえないふりを決め込んだ彼はタイミングを見計らって狭い路地に入り込み、更に曲がりくねった末にバイクを止めてカフェに逃げ込み、素知らぬ顔でサンドイッチをパクついていたそうだ。
見事に追っ手を振り切り現行犯を免れたという。

要するに現行犯でないと捕まらない領域があるのだ。
その場でしょっぴく事が出来ないとあちらもお手上げ状態になる。

しかし、逃げ切れない場合には免許剥奪の刑が待っている。
一か八かの勝負に出た事になるわけだが、10代の若者ならいざ知らず、50にもなろうとしている大人がやる事なのかと言われてしまえば返す言葉もないだろう。

非常にユニークで楽しませてくれる友人である。

私の場合、現行犯ではないが鮫洲に行ってこの写真は私ですと認めざる得ない状況の中で、サインをして赤切符を切られ免許証はその場で没収される事になるだろう。

まさか、いつまでも先延ばしにしておくわけにもいかない。

予定通り出頭してシナリオに従ってやるしかないと決めている。

果たして、30日になるのか、90になるのかは、その日にならないとわからないが、取り越し苦労は最大の毒素なので、腹をくくって90日を覚悟するしかなさそうだ。

今回を機にオービスのある場所に注意を払って運転するか、オービスを知らせてくれるアプリでも探してみようかと思っている。

長男

夜中の3時に携帯電話が鳴った。
このところ睡眠時間が少なかったので熟睡していた。
パッと起きてディスプレイを見ると長男からだった。

新宿からタクシーに乗ってきたが、財布を無くしたか何かで支払いが出来ずに警察にいると。
私は起こされた事に腹がたって文句を言った。
何をしてるんだと、すると警官に変わると言い元気のいいハキハキとした口調で、息子さんが無銭乗車で交番にいます、あなたの住所、生年月日、電話番号をお知らせ下さいと言ってきた。

私は寝ぼけながらも仕方なく彼の質問に答えた。
何となく彼の上から口調に引っかかっていた。

すると、今度はタクシーの運転手に変わると言って支払いはどうしましょうかと言ってきた。
運転手さんにはお詫びを伝えた後、振り込みをするので安心して欲しいと伝えた。
本人に振り込ませるが、万一支払いがなされない場合は、私に連絡いただければ振り込むから大丈夫だと。

これから交番に行って払うのも、自宅に来てもらっても、睡眠時間が削がれるのが嫌なので、振込みで納得してもらった。

その後、直ぐに寝るはずだったが、多少興奮したのか目覚めてしまい寝れなくなってしまった。
結局、睡眠時間を削がれることになってしまった。

私は何故こんな事が起こるのだろうか考えていた。
もし、自分が原因して起こっている現象だったら何の意味を伝えているのか。
考えていたが、わからず仕舞いだった。

つい先日も長男から賃貸の保証人になって欲しいとの依頼があった。
私は普通に保証会社がつくはずだから、連帯保証人はいらないはずだがと思い、不動産会社に連絡をしてみた。
すると、保証会社に保証料の支払いをして契約してもらう事は条件になっているが、連帯保証人もつけてもらいますと言ってきた。
私は両方はおかしい、どちらか一つにするのが筋だと言った。
しかし、両方が契約する条件のマストだと向こうも曲げない。

私は本人と話して見ると伝えて電話を切った。

長男は気に入っている物件だから決めたいと言うので彼の意見を尊重した。
おきまりの連帯保証人の承諾書と印鑑証明書を準備した。
後でわかったが、彼の与信が足りなかったのだ。

今年で21歳になる長男は、高校を中退したあと音楽活動を続けながらアルバイトをしている。
どこかの会社に所属するのが嫌いなようで、これからもどこかに就職する気になれないと言うのだ。

しかし、タクシーの未払いだったり、連帯保証の件にしても自分で責任が取れない以上、これからの人生で社会人としてしっかり自分の位置を確立しないと、いつまでも独り立ち出来ないままである。

まだまだ、子供のマネージメントが必要なようだ。
アウトソーシング出来ない以上、私がやり切るしかないのだ。

直面しながら前進していくしかないようだ。

天然村野良作業イベント

毎年定例になっているが今年は1番きつかった。
全社員による天然村野良作業は、炎天下の中2日に渡って行われた。

1日目は10時から18時までみっちり除草作業を中心に汗をながした。

夜のバーベキューでは、生ビールサーバーが大好評だった。
10ℓの樽があっという間になくなった。

うちの会社は酒が強いやつがたくさんいる。
特に女性陣はたくましく、仕事の面においても宴の席でもリーダーシップをとっている。
男性より女性の方が強いのだ。

会社の飲み会でも朝まで残るメンバーはいつも同じ顔ぶれになる。
私も数年前までその一員だったが、最近はついて行けず一次会で上がってしまう。

6時半から始まった屋外バーベキューは、日中の疲れから酔いが早くまわり9時位には寝てしまう人もいた。

みんなで蛍を鑑賞したり、満点の星空に感激したりして楽しんだ。

それから誰が言い出したのか、ゲームをやろうということになった。
ダンダダンというゲームで、みんなが円になって最初の1人が誰かをダンと言って指名する。
指名された人は更に誰か1人をダンと言って指名する、そして3人目の指名した人の両隣りの2名はダンダダンと言いながら両手を振る仕草をする、それを繰り返していく過程で間違った人が一気飲みをするというルールである。

私は初めてだったが、やっているうちに要領が掴めてきたと思った。
しかし、2回目に手を出したり、3回目の隣にいたのに見過ごしたり、ちょこちょこ間違って一気をするはめに。
すると、酔いが回ってきて思考回路が鈍り2回だか3回だか解らなくなる始末。
負のスパイラルに入り、間違うと一気飲みでまた間違いの繰り返し。
何とか間違わないように目を見開くも苦しい展開で、私の他にNも同じ位に一気飲みの負の連鎖に陥っていた。

実は我々は狙われていたのだ。

大いに盛り上がり眠くなってきたが、元気のいい女性陣は寝かせてくれない。
彼女たちは本当に元気よく明るい。

よく見ると残っているメンバーはいつもと同じ顔である。

他の連中は明日の3時の暗闇の中で釣りをするので寝ている者、酔いつぶれている者、規則正しく就寝している者と様々だか、この後のサプライズは私も知らなかった。

夜12時を過ぎてダンダダンも誰が味方か敵だかわからなくなって酔っ払ってきた時にサプライズが起きた。

男子社員のOが日付けが替わり誕生日になったのだ。
祝いのケーキが差し出されクラッカーでハッピーバースデーを歌った。

このサプライズの演出も女子社員が企画をしたそうだ。
なるほど、寝ては駄目だというのが理解できた。

こんな感じでうちのメンバーは粋な計らいをする。
みんな若く仲がいい。

2日目は朝7時から野良作業が開始なのも、ちゃんとに起きて作業を淡々とやっている。
本当にみんな素晴らしく、一つの方向に向かう結束力を感じる。
また、愚直に取り組む姿勢からも普段どんな仕事をしているかも伝わってくる。

午前10時には終了したが、今年はかつてない素晴らしい天然村野良作業イベントになった。

口説く

何を避けていたのか、最近友人の助言でその正体が明らかになった。

前々から言われていたような気がしたが、まったく耳に入ってこなかったようである。

2016年度の新卒者採用で、Y君が最有力候補として採用チームが選考してきた。
しかし、大企業を含めて内定を6社からもらっているY君をこちらに振り向けるのが採用チームの最大の焦点だった。

そこで、採用チームのリーダーと私とY君の3人で会食をする事になった。
この時点では残念ながら私は気づいていなかった。

会食では、会社のヴィジョンや価値観を深掘りして話し、現場の実話をリーダーが話したり、プライベートのことやらお互いの趣味の話で和やかな時間を過ごした。

私としては決めてがない感触があり、正直このままの状況で内定を出したとしても、彼が来てくれる可能性は低いと感じていた。
しかし、こちらから主体的に効果的な動きをする事は見出せないでいた。

その後、友人とその話をする機会があり、彼は私を弱気相場と称した。
いわゆる、株式市場で例えると買いより売りが多く、売りが売りを呼んで買い手が不在のような状況を指す。 売らないとどこまで下がるかわからなくなっている状態である。
彼独特な言い回しなのだ。

しかし、その時点でも私は聞こえなかった。

ある日、採用チームでの会議のあと役員と話し合いが行われた。
役員はこの際なんの考慮も捨て誠意をもって口説きましょうと言った。

最終的には私がY君を口説くのがベストとなった。

実は口説くのが大の苦手であった。
いや、苦手と言うよりもチャレンジしていなかったと言った方が正しいだろう。

そのチャレンジを阻んでいたのが友人の指摘した弱気相場である。

恐れ、傷つきたくない、これらが正体なのだ。

ある領域に踏み込むのに恐れがあるようだ。

それらを感じないために無意識に感情を避けている。

例えば、女性に対しても自分から本気で口説いた経験はない。

軽いノリで一緒に遊んで付き合いに発展したり、向こうから興味を持ってもらったと感じた時に付き合うようなスタンスで、私に対して嫌いの対象にないところからの相手を口説き落とすことなどは、断られたら傷つくのが恐いので無意識に避けていた。

要するにガラスのハートなのだ。

しかし、仕事でしかも最有力候補を何とか我が社に採用したいとなると、そんな子供染みたことを言い訳にしてチャレンジしない自分でいるわけにはいかない。

そう思った私はそれらの感情を持ったまま、純粋な気持ちで誠意を尽くしてY君と面会した。
自分の想いを素直にぶつけ口説いてみせた。
その最中はエネルギッシュに溢れた会話が出来て彼との波長も合った。

人生で初めて口説いた相手が男だったのも変だが、自分なりに納得できた体験に満足だった。

Y君も前向きに返答しますと言ってくれた。

しかし、結果はどうであれ今回のプロセスで発見した事の価値が大きかった。

これからはヘッドハンティングも視野に入れ、この人物だと思った人材をエネルギッシュに口説いていこうと思っている。