恵比寿の雑居ビル5階にひっそりと店を構えて6年近くになる。
看板もなく、ビルの外から見てもエントランスからも初めて訪れた人は、鮨屋があるとはまったくもってわからない。

9歳下の弟は、実直な人柄と技術で世界中から著名人を引き寄せている。

名古屋の友人Mからリクエストがあり、久しぶりに店に顔を出した。

いつもながら高くて美味い店は当たり前だと思っている。
すなわち、コスパ重視からすると鮨早川のコンセプトに共感するところはない。
とはいえ、たまに行くと普通の鮨屋では体験出来ない世界が待っている。

Mもかなりの食通だが、細かな味付けに舌を巻いていた。
弟の真骨頂はネタそのものを最大限に引き出す創作的な料理にある。
例えば、白身にしても何日か熟成したものを塩やポン酢で出したり、鰹の味付けにガーリック風味の塩を使ったりする。

ノレソレという穴子の稚魚をたまごと海苔で和えた一品は絶妙な組み合わせで、Mも5年ぶりに食べたようだが、この合わせ技に感心していた。

また、まかない料理だという大トロの筋焼きや、イカの頭を細切りにして生姜を混ぜたものは、本丸より価値が高いと思わせるほどだった。
むしろ、コスパ重視派からは、このまかない料理バージョンに絞った商品構成にしてくれた方がよっぽど嬉しい。

弟に言わせると、兄貴はまったく解ってないと意に介さずにいる。

そんな弟とは、隔週日曜日にゴルフに行っている。
土曜日の夜遅くに店を閉めて、睡眠時間は1〜2時間程度、おまけに練習も出来ない環境と比べ、こちらはベストコンディションでレッスンに通い練習しているにもかかわらず、いつも弟には負けている。
もう、悔しくて悔しくてたまらないのだ。

センスの違いはあるだろう。
しかし、それだけで片付けられては、努力は報われないではないか。

そんな思いをしながら、今日も負けて悶々としている。