決断

やめよう。その一言で局面が一気に変わる事になった。
まさか、このタイミングで判断する機会があるとは思ってもみなかった。
解約する決断をしてから初めて内なる心に気づくことがあった。

パリの不動産を取得する契約を締結してから2ヶ月あまりになる。
今月末に鍵の引き渡しと売買代金の残金を支払う事になっていた。
その土壇場で契約をご破算にした。
前日までその可能性は1%位に過ぎなかった。
潜在意識に無かったかと言えば嘘になるだろう。
しかし、不思議なことに顕在意識ではそれを確認することは出来なかった。

今期4月から入社する新卒と一緒に、幹部となるCOO(最高執行責任者)F氏も同じようにイコムの一員として迎える事になった。
Fは言わば軍師としての役割である戦略を描き、自軍の戦力を把握し、組織が機能的に動くように働きかける任務となる。

Fは直近まで、日本の伝統文化である器や工芸品をパリで販売するチームに参画していた。
約4年間の経験を持ち、多彩なネットワークを持っている。
彼の体験からパリで成功する肝はユーザーとのリレーション、つまりお客様と信頼関係を有する接客が決定的な要素だと振り返る。
従って、パリの人々は非常にお目が高く、口コミによる拡散が成功を定義づけるという。
気持ちの良い体験をしたり、信頼を得たならば、その店に家族や友人を連れてやってくる。
それがリピートに繋がり繁栄していくサイクルになるという。

イコムのパリプロジェクトに最も必要だったのは、紛れもなく現地、現物、現場に立つ優秀な日本人スタッフになる。
今の時点で不在なのは決定的な要因となる。
これまでは、ポップアップ店舗としてのコンセプトで、実際に店を運営するテナントがそれを補い、イコムは現地のスタッフを派遣するサポート体制を考えていたが、それでは完全な成功要素になっていなかったことが判明した。

今から準備して体制を整えながら順次進めて行く事も出来るが、物件の取得に関しても事業構造の大事な領域になるので、ゼロベースで再開する方が良いと判断した。

戦国時代で例えるならば、敵陣に向かって兵を出して城を攻めに出たが、あまりにも守りが固いばかりか、戦場となる場所の条件がこちらにあまりにも不利で、自軍の兵をこれ以上失うリスクの方が大きいと判断し、一旦兵を撤退させた格好になる。

実際に契約をご破算にするコストは決して小さくないが、なぜか安心している気持ちが感じ取れているのは、潜在意識にそれがあった事になるのだろう。
ホッとしている反面、同時に悔しさもあり、体制を整えてから必ずやプロジェクトを成功させる決意をしている。
パリプロジェクトが消滅したのではなく、事業構造をきっちり組み立て直し、やるべき事の準備を整えてから物件取得をしたいと考えている。

今回は、軍師Fの知見が判断するに至る最大の要因になった事もあり、まさにタイミングよく強い味方が現れた事に大変嬉しく思う。

これまでの経験で、パリの現地法人を通じて、たくさんのネットワークを構築出来たことは財産として残る。
再挑戦する日まで、しっかりと体制を整えて城攻めに備えたい。