あっちの世界

久しぶりに顔を見たら元気そうだった。
体は若干細くなった印象だった。

約4週間留置場に拘留されている次男に面会をする為に妻と警察署に同行した。
妻は着替えや本を届けに1週間に1度の割合で面会に来ているが、
今回私は初めてだった。

殺風景な面会室は硬直した雰囲気で、あっちの世界とこっちの世界が
完全に分断された空間だった。
あっちには壁を隔て警察官と次男が、こっちには妻と私がいて、透明
な壁に丸く穴が開いていて会話は出来るが、それ以外に隙間がないの
で、何か直接渡すことは出来ない。
本は警官を通して渡す事は出来るが、手紙はなぜか外から郵便で警察
宛に出して本人に行き渡る仕組みになっていた。

私は開口一番、住み心地はどうだ?と聞いたら、最悪だよと顔を若干
しかめた。
畳2畳の空間に17歳の暴走族のあんちゃんと2人で生活しているという。
狭い空間に自由が効かないし、飯もまずいし量も少ないので、あっち
で楽しみを見出すのはかなり難しいようだ。
但し、17歳のあんちゃんと一緒なのが唯一救われるだろう。
話し相手がいるのは気がまぎれるし、一人よりも良いだろうと思った。
私が色んな話を2人でするのか聞いてみたら、彼がうなずいて色々ねと
言った瞬間、隣にいる警官が「色んな話しとは何だ!」と一喝した。
話の内容も限定されるらしい。
警官の反応に少しムッと来たので、私は次男にここから脱走するなよ
と冗談半分で言った。
すると、警官がこっちを向いて鋭いまなざしを差し向けた。
私は間髪入れずに次男が可愛がっている愛犬の写真を見せた。
本来は面会室で写真を見せるのは御法度らしいのを知っていたが、
私なりの反撃を試みた。
すると警官が苦虫を潰したような顔で言った。
少し差し控えて下さいと。
まるで親が親なら子も子と言わんばかりの表情だった(笑)。

しかし、犯罪を犯した者である以上はごく当たり前の処置だろう。
留置場で飯が美味かったらおかしいし、自由な空間があっても変である。
次男の拘留が長引いた原因の1つには公務執行妨害だったらしい。
ガソリンスタンドで消火器を盗んで警察署に撒き散らしたそうだ。
その他余罪もあって、これから鑑別所に移されて2、3週間でこっち
の世界に戻れるだろうと、その日来てくれた弁護士の先生は言っていた。

私からの土産として本を1冊渡した。
成功哲学の本で彼には少し難しいかも知れないが、1年後、5年後、
10年後の自分のビジョンを明確にしてこっちの世界に戻ってくるだろう。